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Record Details


くるり 学(まなぶ)の 牛津録
Record #: 08

Title: 「敗残者」

Issued on: 2002年5月11日
Last modified: 2002年11月16日

メルマガで発行したモノを、加筆修正して、随時ここにアップしていきます。



your picture here
◎編集後記


 こんにちは、くるり学です。今回の話、いかがだったでしょうか?
 しばらく暗〜い話になると思いますが、これ無しでは留学生活が語れません。 これから三号程度お付き合い下さい。間に余録を挟んだりして息抜きを入れる つもりですので、暗い話が嫌いな人も辛抱してくださいね。

□近況

 ブリトニーはどうやら大丈夫そう。

 休暇中、クライスト・チャーチ・カレッジで、ハリーポッター2の撮影をし てました。かつての大学の中心ラドクリフ・カメラ(図書館)の周りに、20数 台ほど巨大な車が並んでいて吃驚しました。夜その場所を通ってて、普段何も 無いはずの所にいきなり物々しい車が並んでたら驚きます。

 モードリン橋工事終了。これも休暇中の話。東にカウリーという、ちょっと したダウンタウンがあるんですが、そこに行く時その橋を渡るので大変でした。 後ろから来る車のライトと自転車にびくびくしながら100mぐらい。

 休暇中ウェールズ行ってきました。いつか書くかもしれません。余録かな?

 今週頭に、指導教官との対決があって、突然忙しくというかプレッシャーを 感じ、研究以外に手がつかなくなってしまいました。一週間前だと言ってた物 が突然一週間ずれるし。
 まあ、それ以外でも実は理由があるんです。
 実は今年で卒業する予定で。
 ドクター・くる〜り〜!(何だか間が抜けてる)
 だから、この牛津録は僕自身の卒業でピリオドになると思います。
 これからのメルマガも含め、詳細は余録で書く予定ですので暫しお待ちを。

□お知らせ

 掲示板にも書いたのですが、例の“ゴードン”さん(本物。グラスゴー出身) に「ハギスに捧ぐ」と「野鼠に捧ぐ」を朗読して貰いました。録音してmp3 ファイルにしてありますので、興味ある方は一度聞いてみてください。英語が よくわからない人に、スコットランド訛りは面白いと思います。生半可に英語 が聞き取れる人にはカルチャーショックにすらなりえますよ。僕? 未だに慣 れなくて振り回されるよう。スコットランド訛りは面白い。
(正確に言うと、この朗読は、昔のスコットランド一地方の訛りで頑張ってる らしいので、現代人が無理矢理江戸の言葉を話すようなものかも知れません)

  『ハギスに捧ぐ』約1分30秒 1.4MB (ISDN 約5分)

  『野鼠に捧ぐ』 約1分20秒 1.3MB (ISDN 約5分)

 ※適切な設定がされている場合、ブラウザでそのまま視聴できます。そうでない場合、一旦デスクトップにセーブして下さい。ファイルを二度クリック(Windows)する事で、対応プレイヤーが自動的に起動すると思います。Macもほぼ同様。

 ところで掲示板なんですが、二三日に一度、日記のような書き込みを続けて ます。偶に居なくなりますが、ほとんど「牛津日記」状態(笑)で頑張ってま す。携帯でも書き込める掲示板なので、皆さんもどんどん書き込んでみてくだ さい。

□『野鼠に捧ぐ』補足説明

 説明するの忘れてました。
 第六録の三に登場した詩「野鼠に捧ぐ」最終節
   Still thou are blest, compared wi' me!
   The present only toucheth thee:
   But och! I backward cast my e'e,
   On prospects drear!
   An' forward, tho' I canna see,
   I guess an' fear!
      
  標準英語訳(by Kururi)
    Still you are blest, compared with me!
    The present only touches you:
    But oh! I backward cast my eye,
    On prospects dreary!
    And forward, though I cannot see,
    I guess and fear!

  標準?日本語訳(by Kururi)
    でもまだお前は、僕よりマシさ!
    「現在」は お前のとこだけタッチ
    あ でもそうだ! って僕は後ろを振り返る
    ああ 何て げんなりな景色!
    前はと言うと、見られないんだけどさ、
    思い浮かべちゃって 恐いのさ!
の2行目で「現在」って訳してる所、カギ括弧で括っていたのには理由があり ます。

 詩のように頻繁に意味を重ねる媒体では、present と書くと、「現在」と 「プレゼント」という二つのニュアンスが混じります。通常神様からの贈り物 は、ギフトgiftとなるんですが、昔から(一体いつからだろ?)「現在」は神 様(や愛する人々)から与えられた祝福された瞬間だと言う小噺がありまして…。 なんてもっともらしく書こうとしてたら“ゴードン”さんが適切なツッコミ。 「現在って意味だけだよ」つまり、鼠は昔や未来の事を考えなくて気楽だな〜 現在だけタッチしてるんだもんな、という意味だけのよう。カギ括弧は紛らわ しいから取った方が良いかも。

   蛇足ですが"present"の話を書いたチェーン
   ・メールが6、7年ぐらい前に流行ってたよ
   うです。ちょっといい話だから皆おもわず回
   してしまう。知り合いから翻訳バージョンが
   送られて困ってしまった事も。
  (既に英語で何通も貰ってたのに…)

 で、1行目「祝福blest(blessの過去分詞)」から2行目「祝福された瞬間 ?present」と移っていく訳ですね。それから、「present現在」の意味と、 look backward(過去を振り返る), look forward(未来を見る)をかけてる んです。それらと、実際の畑の状態を掛けているのは訳文通り。 「後ろ(過去)を耕したと思ったけどひどい有様だ。  前(未来)なんて想像するだけで恐いからとても見られない」

 「最善プランは駄目になっちまう」なんて言ってるそばから、自分(人)が 失敗してるじゃないか、っていうオチかな。オチてるかどうかは僕に聞かない で下さい(汗。

 以上、もっとあると思いますが、僕の解釈・楽しみ方の一つです。へーとで も思って下さい。同じ読みをされた方、今更なことを書いて済みませんでした 〜;-) 詩全体の解釈は、ちょっと遠慮させて下さい。

□なぜ文章を書くか

 全然関係無いように見えて、僕なりに、後世に残しておきたいと思う物を紡 いでいっています。来る前の自分や来たばかりの頃の自分に宛てた、ある意味 手紙の数々なんですね。留学した人、留学している人、留学しようとしている 人、それらを送り出す人、送り出そうとしている人、また留学に興味のある人。 それらの方々を数えればキリがないけど、その人たちに贈るメッセージ。留学 中の人がどの程度楽しめるのかが、一番よく分からない点なんですが、こっそ り他の日本人留学生に読ませてみて意外に感触悪くなかったので、必要以上に 考えないよう努めてます。
 なるべく肩の力を抜いて、でも後に残るようにと心がけているんですが、力 抜けすぎたり入りすぎたり、未だにペースが掴めないです。ずっとこのまま掴 めないものかも……。

□次回予告

 次号は、第四余録「トリニティ学期」です。ひょっとして第九録を書くかも 知れませんが、取りあえず5/25辺りに発行の予定です。お楽しみに!
 メールで質問など送って下されば、文章の中でちょこちょこ応えていこうと思ってますので、皆さんどしどしメール下さい。結構頑張って、個別に返信もしています、半々ぐらいで(汗)。

by Kururi
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
      !!無断転載厳禁!!     
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行者名:くるり 学 (kururi_m@lycos.jp)
マガジン名:英国留学 牛津録
発行周期:ほぼ隔週刊(不定期って申請したのに[泣])
発行人サイト:http://members.tripod.co.jp/kururi_m/
(C)M.Kururi, 2001-2002. All rights reserved.
このメールマガジンは『まぐまぐ』『melma!』『メルマガ天国』『Pubzine』 で発行しています。マガジンIDは以下の通りです。
(まぐまぐ: 80277)(melma!: m00055251)(メル天: 8665)(Pubzine: 16678)





SIDENOTES

 * 正当……本来なら妥当と書きたいんですが、こう書きました。現状で妥当だろと言われない為に。(理由をもっと詳述したんですが、堅い文章になってしまいました。本文以下にあります。)

 *1 エクスキューズ=excuse

 *2 セルフィッシュ=selfish


  • 登場英単語:
    エクスキューズ …… excuse
    セルフィッシュ …… selfish



Body

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■DOMI|MINA■  くるり学 の                ■■■■
■ NVS|TIO ■          牛津録           ■■■■
■ILLV|MEA ■        oxford  record         ■■■■
■ |VVV| ■                第八録     ■■■■
■■■■■■■************************■■■■

●第八録「敗残者」
 
 「日本を変えましょう」
 
  半透明のガラスの向こうに、紅茶色に染められ、歪んだ男の像がある。
 かつての暖炉が備え付けられた、さも立派な部屋で、彼はそう応えた。応
 えたと言うより訴えかけたと言う方が正しい。あたかも、立てかけられた
 剥き出しのガラスを拳で叩き割るかの風に捲くし立てる。左右から不規則
 に繰り出される掌と共に、幾つかの妥当らしき点をあげつらえ、最後に
 「このままじゃダメでしょう?」と付け加えて彼は弁舌を終えた。先刻の
 紅茶は未だやや暖かく、しかし一向に減らない様子で僕の顎先を湿らせて
 いる。
 
  彼は、この国の滞在が比較的長い日系アメリカ人の学生だ。生まれ落ち
 てより中学校入学までの生活が、ガラス前の男に微かな日本の残滓を与え
 ている。
 
 「いや、俺はいいよ」
 
  先輩面をして主語を取り替えてみた所で僕の言葉は心なしか、か細く、
 弱々しく、きっと10フィート先のガラスを撫で付ける程度に過ぎない。
 話し続ける彼をよそ目にゆっくりと動く紅茶の湖面を眺め続ける。湖面に
 映った窓外の景色はいつしか灰色に染められ、庭に植えられた木が出鱈目
 な風に翻弄されている様が見えた。
 
  英国の地を踏むまで僕は日本に住み続けた。それで、都合二十数年暮ら
 した事になる。だから、その国の駄目な所をあげつらえようと思えばキリ
 が無い程で、彼に指摘されるまでも無く、いや寧ろ、永らく住んだ事の無
 い彼に較べ、それこそ身をもって痛感しているし痛感してきた。例えば、
 建前と本音の嘘。上下関係の不自由。過去の事例と細則とでガンジ搦めに
 された社会。理不尽な命令。不充分なシステム。失敗に対するナイーブさ。
 それらに伴う一方的ストレス発散の連鎖。公私を上手く分けられない不器
 用な人間関係。第三者、正当(*)な批評眼の欠如。厚顔無恥な役所様組織。
 目的を見失った大学組織。組織。組織。
 
  彼は言う。「完全能率性と完全歩合制を導入すれば、その殆どが簡単に
 解決するんですよ」と。日本に居たときの動きにくさ、不自由で非効率・
 理不尽なあり方を話していてそんな事を言われた。
 
  それは余りに簡単すぎて、日本を知らない者の短絡的な結論としか思え
 ない。血を惜しまなければそれは可能だろう。社会を完全にアメリカが求
 める民主資本主義へと変貌させるならそれでカタが付く。でも、そんな社
 会が我々の求める社会なのか? それが求めるべき幸せな社会なのか? 
 百出する疑問と混乱を包含しつつ、それらを受け入れることなんて到底僕
 にはできない。そもそも能率性・合理性と言う物は、鼠を川へと導いてい
 く為の尤もらしいオマジナイにしか思えないのだ。架空の理想郷(ユート
 ピア)を夢想させる前時代的な幻燈機に過ぎないのじゃないか。
 
  苦悶と実感を抱えた事のある者にしか、説明なしでこの感想に納得する
 事はできないのではないか。そう思えた辺りで反論する力も萎え、ただ口
 をついて出て来る言葉は最も当り障りの無い言葉だった。こんな所が日本
 人なのかと自嘲しながら。
 
 「俺はいいよ」
 
  僕は力無くそう答えた。
  力無い言葉。受け取られる宛ても無く空中で彷徨う、そう運命付けられ
 た言葉に違いないのだから。
 
 
  そもそも何でこんな話になったのだろう。ああ、そうだ。彼が僕に質問
 したからだ。何故イギリスに渡ってきたのか。何故日本に留まって変えよ
 うとしなかったのか……。
 
   **   **  
 
 「なんで自分で変えないの」
  ある日こんなことを友達に言われ、はっとした事がある。自分で変えよ
 うとしないとこの社会は変わらないよ。彼はそう続け、僕はしばし言葉を
 失った。目の前のグラスにレモンの切れ端が浮かぶ。日本に居て、珍しく
 愚痴っている時の話だ。
 
  変えようとしていないのだろうか、それとも変えられないのか、自分で
 も判断に困ったのかも知れない。しかし「でも」と口ずさむ。でも、変え
 ようとして変わるんだろうか?
 
  例えば基本的な疑問「時間通りに動かなくても同じ仕事は出来るのに、
 なぜ顔を合わせて不必要な議論を重ね、時間を費やさなければいけないの
 か?」なぜ話してるだけで楽しいと感じない場所に、年下だからと言う理
 由だけで無意味に蔑まれながら、それでも腰を低くして楽しくもない時間
 を過ごさなければならないのか?
  年配者は応えるだろう。「実力があれば問題ない」結果を出せば評価は
 後からついてくる。“評価”された実力者が、蔑みと共に。
 
  そうすれば次の疑問だ。
  結果は、およそインスタントに出て来るものじゃない。時間を掛けたか
 らと言って、自分で満足できる結果を手にする事ができるかどうかもあや
 しいのに。そして、運良くそれを手に入れたとして、その瞬間まで無意味
 に耐えなければならないのだろうか。それらが100%正当に評価される保
 証も無いのに。
  失った時間は、果たしてそれで補償されうるのか?
 
  疑問は尽きる事無く疑問を産み出し続ける。仮に足掻いてこれらを噴出
 させ、得られる物と言ったらなんだろう。孤立と視線? いや、これも所
 詮タワゴトだ。
  僕は一小節程小さく唸り、戯れにグラスをかき混ぜて沈黙を返した。
 
   **   **  
 
  事実、大して言う事は無いのかも知れない。紅茶を眺めながら、僕はそ
 う反芻した。ただ事実があるだけで「変わらなかった」そして僕は「渡っ
 てきた」のだ。
  その前で、全てのエクスキューズ(*1)は戯言にしかならない。効率だの
 合理だのと振り回す人間の前で、それらが水泡に帰す事は、かつての自分
 で既に立証済みなのだ。
  ……ひょっとしてと思う。木々と一緒に湖面を吸い上げながら……ひょっ
 として、事実は単に僕が「セルフィッシュ(*2)」なだけなのか。憎しみの
 国を逃げ出し投げ捨て、自分の為だけに僕はここに居るのか。
 
 
  社交的な彼は、これ以上踏む込むべきでない雰囲気を察知し、適当に話
 題を変えていく。イギリスの飯はまずいだとか、あそこのカレッジの飯は
 まずいだとか、自分のカレッジがいかに“ダメ”だとか。それから部屋を
 歩いて自分自慢をする。上流階級然としたその語り口は、小気味よくもあ
 り、じれったくもあり。
 
 「ありがとう」
 
  適当に会話を切り上げて、美しい紅茶のお礼をのべ、立派なドアを通過
 してその部屋を後にした。
 
  建物の外に出るとカレッジの美しい庭が見える。先程の植えられた木々
 が見える。上を見上げると既に冬の足音が忍び寄る初秋の寒空、夕方だと
 言うのに日の光はついぞ見えなくなっていた。
 
 
 (了)
 
 
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* 正当……本来なら妥当と書きたい所。「正当」とは主張するものであって、
議論して絶えず変更を促されるべき批評の性質とは相容れない。議論されるべ
き意をもとより含有する「妥当」という言葉の方が、この際“妥当”だと思わ
れるからだ。
 求められるのは、妥当な監査集団。
 更に論を進めると、監査する第三者も常に監査されるべき対象であるはずだ。
ただ、それによって監査の輪が複雑になるので、導入しようとする集団の動機
を削ぐ。そのため、より妥当な監査集団の是非を討議する機会までも防ぎ、監
査機構導入以前に人々を権威的思考に走らせる結果となるのではないか。年寄
りは頭が固いんだと揶揄する前に、このシステム自体を変更すべきだと考えて
いる。
 では何故「正当」を使用したかと言うと、これら現状を「妥当」であると評
価する傾向が確かにあるためである。それを回避するために敢えてこの様な表
現をした。

 少し話はずれるが、後者で使用した「妥当」は、その集団内のみに閉じる妥
当性では無く、広く一般に日本人的集団を鑑みた上で発される言葉だと認識し
ている。平たく言うと、「若造に非を指摘されて素直にうなずける年寄りは皆
無」という日本的集団の性質に起因する。もっと平たく言うと、小学生に
「この漢字違うよ」と指摘されて
「ちょっと間違えただけだろ(ポカ)」
となぜか怒り返す高校生みたいなもの。もっともっと平たく言うと、年下に
「まなぶ〜」と言われて
「誰がまなぶじゃボケ〜。まなぶ様とお呼びっ!」というような……。

 この様に、見栄、建前、立場、その裏にある年功序列の構造と思想が、日本
社会には蔓延していて、全ての現状を「妥当」と判断する土壌がある。困った
事に、勿論それにも功罪両者が含まれている訳で、それゆえ何百年何千年と生
き長らえる事はできたのだろう……。
 根は異様に深い。

(この文章、堅いんだか堅くないんだかよく分かんないなあもう)
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